ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

建設業界の自動化元年、人間とDX・AIテクノロジーをどう共存させるか

第1回日本の得意分野もテクノロジーも、個別から統合へ進んでいる

2020年春にコロナ禍が始まって以降、予想を超えた勢いで建設業界にもDX化や自動化の波がやってきました。皆さんもご存じのように、近年注目されている大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)の活用もどんどん実用の域に入っています。

データを投入するだけで実現する自動設計や、データから3Dプリンタのようなシステムで建物を建ててしまう世界も近いでしょう。大切なのは、このような潮流によって社会がどう変わるか、その中で私たちがどう備えて動くべきか熟考することです。

そのためには細かい技術より大きな局面を捉え、建設業界と社会がより良い関係を結ぶ方法を考えなければいけません。今回のシリーズでは皆さんにDX化・自動化の現在を伝え、建設業界とどのように共存させていくかを紹介したいと思います。

連携と自動化を制した者がプラットフォーマーに

まず現在のビジネスモデルの流れを確認してみましょう。一番分かりやすいのは「プラットフォーマーの出現」です。GAFAMといわれる企業群は、いわば独自データを保持・提供することで市場での優位を勝ち取りました。しかし今はUberやAirbnbに代表されるように、大小さまざまなビジネスによるマッチングを提供する企業、つまりプラットフォーマーが勃興しています。

プラットフォーマーの特徴は、あらゆる領域をシームレスにつなぐことです。これまでは考えられなかった組み合わせを概念上でもテクノロジー上でも実現させて、新しい世界を作ったのが彼らです。ビジネスで物事の連携やインテグレーションに価値を置く流れは、今後の建設業界でも避けて通れません。

逆にいえば、今分断している事象をシームレスにつなぐ、個別の物事ではなく仕組み全体を考え直す、という動きを意識すれば大きな変革や改善が見込めます。そして、大規模に効率よく連携を実現させるためにはDX化・自動化のテクノロジーが不可欠です。社会に貢献し続けたいなら「インテグレーション」という概念と「自動化」というテクノロジー、この双方を取り入れなければいけないのです。

建設業界に今ある「分断」をどう見直すか

私たちの足元でも見直せるポイントは多々あります。最大課題として建設業界に立ちはだかっているのがサプライチェーンの分断です。サプライチェーンには、事業戦略・設計・施工・お客様の事業運営などの各過程を含みます。ITによるデジタル化やシステム導入が進み、それぞれの過程では「○○システム」が稼働して業務がスムーズになりました。

しかし異なる過程を結ぶシステム連携はほとんど取れていないのが実情です。「営業系」と「設計系」では別々のシステムが存在し、「設計系」と「施工系」のシステムも分かれているため、どうしても情報が分断されてしまいます。建設プロジェクトの各過程に必要な情報は全く異なっているわけではありません。むしろプロジェクトのどの過程でも共有できるデータは多く、分断によって無駄な作業や確認が増えています。

これらサプライチェーンのシームレス化を誰が最初に実現させるか、水面下ではさまざまな企業が動いています。それぞれの過程で存在しているシステムと既存データの互換を最初に進めた企業が、建設業界のプラットフォーマーになり得るのです。

産業分野もマネタイズも融合が進んでいる

ビジネスを創り出す産業分野についても融合化が進んでいます。私は日本の得意分野は主に3つあると考えています。1つ目はホスピタリティや技術力などの「独自魅力」、2つ目は省エネやインフラ強化などの「環境強靱化力」、3つ目は医療やスポーツなどの「健康長寿力」です。これらは別々に存在するのではなく、すでに互いの長所を融合させてビジネスが成り立っています。

日本の得意分野もテクノロジーも、個別から統合へ進んでいる

ただ、この3つの強みが融合されたビジネスとして成長するためには、通過しなければいけない大切なフィルターがあります。それは「仕組み構築」と「マネタイズ」であり、どちらもまだ日本の不得意分野です。もしこの2つが外資から入って日本経済を席巻したら、たとえ強みを持っていたとしても私たちは世界の下請けになるしかありません。それはどうしても防ぎたいのです。

実現のためには、これまでと違うレベルで建設ビジネスを見直し、早急に「仕組み構築」「マネタイズ」を含めたDX化・自動化へつないでいく必要があります。そのヒントについて、今シリーズは以下の流れで解説します。

  • 第2回
    全てを載せられるデバイスとして、建築物を考えよう
  • 第3回
    DXで設計の自動化、複雑な条件組み合わせを可能に
  • 第4回
    求められるのは、個別設計より効率的なアッセンブリ
  • 第5回
    効率的に基本を構築、その上で志向や思想を生かす建築へ
  • 第6回
    施設建築の全情報がつながり合い、活用し合える未来

今後は、あらゆる情報と連携するコネクテッド施設がビジネスのカギを握ります。対応するためには「建築物」の構造を変えなければいけません(第2回)。さらに、その実現に向けた建設サプライチェーンのDX化・自動化の開発を進めて(第3回)、目的とする成果や求められる人財も見直すときが来ています(第4回・第5回)。シリーズでは、その先にある建設業界の姿を予測し(第6回)、皆さんの良い羅針盤になればと考えています。

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