今までインフィル改装が主流にならなかった理由
工事費の高騰やコロナ禍後の働き方改革は社会に多大な影響を与えています。それに伴い建設業界に求められる設計や工事にも変化が現れました。それは前回でも紹介した「インフィルに対するリフォーム案件の増加」です。では、なぜ今までリフォーム案件が主流にならなかったのでしょうか。大きな理由として考えられるのは歩留まりの悪さです。
新築は更地から始めるので、自分たちが動きやすいようにさまざまな工程を効率的に組み上げられます。しかし既存施設を活用するリフォームの場合はスタートが異なります。まず現状を調査し、確認して、可能なプランを設計して発注元のチェックと許諾をもらうプロセスが欠かせません。
一件一件の条件が異なるので施工でもオーダーメイドのように細かな配慮が必要ですし、既存の情報が正確に入手できるとも限りません。それを「手間」と思ってしまうと予算をかけて取り組むのは難しいでしょう。実際、作業量と費用対効果を考えて手控える企業は数多くありました。
小型スケルトンをリデザインできる企業が伸びる
しかし今の需要のメインはここにあるのです。ゼネコン主導の大型案件とは違い、内装業者・設計事務所のような機動力が高い企業にチャンスが生まれます。これを新たなビジネスを勝ち取る機会と捉え、実際に組織を改革して建築プロジェクトを手がけ始めた企業もあります。全国でもこの潮流を活かしたいと思う業界の人々は多いのではないでしょうか。
これまでなかった需要にうまく応えられるようになれば、先ほどは「手間」と表現したプロセスでも必ず合理化の道筋がつけられます。場数を踏めば踏むほどより効率的なリフォームを実践できるようになり、デジタルデータへの変換技術も身につけられるので依頼件数は増えるでしょう。その経験の中でスモール新築とリフォームを組み合わせたインテグレートとして集約・統合するノウハウを得ることも可能です。今はちょうどビジネスモデルの主流が移り変わる過渡期にあたり、うまく流れを掴んでチャレンジした企業が実績を上げられるのです。
今後は「必要に迫られたリフォーム」が増えていく
もう一つ、リフォームの件数が伸びると予測できる資料を紹介します。それは「これからの社会資本投資規模の見直し」のグラフです。1970〜1979年に竣工した公共のインフラおよび建築物は、新設や改修で2020〜2029年に197兆円規模の投資需要が見込まれます。次の10年は253兆円、さらに次の10年は357兆円です。仮に建築物が占める割合が2〜3割だとしても相当な投資規模となります。
これらは老朽化によって安全性に問題が出ることが予想されるため、予算がなくても「必要に迫られて」手を打たなければいけない建築物です。建設業界から見れば、今後確実にこれだけの需要があるといえるのです。
このうちある程度は新築で建て直したり、施設自体をなくしたりするかもしれません。しかし多くのケースでリフォーム案件になると思われます。
そこで私たちができるのは、既存施設・空き施設のリデザイン・リニューアル・コンバージョンです。1981年以降の新耐震基準を適用した建築物であればスケルトンを再利用したリフォームが検討でき、Is値≧0.6を確保を実現すれば十分に存続利用可能な施設を提供できます。
新しい「インテグレート」
せっかくの建設機会を単なるリフォームで終わらせないために、私たちは常に「インテグレート」の可能性を考えていくことが重要です。ここで私が述べたい「インテグレート」とは、先ほども紹介した、将来の人口に見合った【ダウンサイジング新築(スモール新築)】と【用途を集約したリフォーム】を統合した概念です。今後の人口減を見据えた有用な建築物を考えるなら、どちらも欠かせない要素になっているからです。
10年前はこのような話も一つの理想論のように聞こえたかもしれません。しかしコロナ禍を経て皆が社会変革を体験した今であれば、将来に実効性のある概念として受け入れやすくなっているのではないでしょうか。