今回は、第2回で紹介した「対日直接投資促進戦略」について、建設業界にどのような影響が及ぶのかを解説します。情報は、得るだけでは本来の価値を発揮できません。情報を得た後で行動に結びつけなければ意味がないのです。その点に注意しながら詳しく見ていきましょう。
可能であれば、現在の最新PDF資料「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン(令和5年4月26日)」(①)と「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプランの概要(令和5年4月26日)」(②)の2件をダウンロードしてから今回のコラムを読んでください。解説の理解が深まると思います。
「対日直接投資促進戦略」が狙っている効果は何か
資料①はWordによる全23ページのテキストです。今回の策定意図や具体的取組について細かく記載されています。資料②はその内容をA4用紙の表・裏にまとめたものなので、まず資料②から概要を確認してみましょう。
重要なのは、資料上部にある通り、これが「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」である点です。コロナ禍後の国際秩序の転換をチャンスと捉え、新たな成長のために海外からの対日直接投資額を増やしていくのが主眼です。2020年は40兆円の実績があり、これを2030年に80兆円、最終的には100兆円に到達させるのが目標とあります。
資料下部には「Ⅱ.具体的取組」があります。今回の戦略はここにある5つのアクションプランの実行が軸となっています。ということは、この5つは国が非常に強い意思をもって実行したい内容であり、d実現度の高い施策といえます。
- 国際環境の変化を踏まえた戦略分野への投資促進・グローバルサプライチェーンの再構築
- アジア最大のスタートアップハブ形成に向けた戦略
- 高度外国人材等の呼び込み、国際的な頭脳循環の拠点化に向けた制度整備
- 海外から人材と投資を惹きつけるビジネス・生活環境の整備等
- オールジャパンでの誘致・フォローアップ体制の抜本強化、G7等を契機とした世界への発信強化
資料①と絡めて建設業界としてまず注目したいのは、「海外直接投資を呼び込む」「アジア・ハイテクセンターの地位をつかむ」という方針です。
クリーンで豊かな水資源があり、物流・製造が結集できる場所が新たなハイテク都市網の条件だと考えると、皆さんもあるニュースを思い出しませんか。北海道での「ラピダス次世代半導体工場建設」や熊本県での「TSMC半導体工場建設」なども、上記の施策と無縁ではないわけです。2030年まで国の方針が続くのであれば、この2カ所に続く施設建設が予想されます。
工場が1つできれば、周囲には材料や物流、微細化技術などを持った装置関連企業が集結します。アジアを見据えた物流を考えるなら交通網も今まで以上に整備が進むはずです。それは私たちにとって大いなるビジネスチャンスではないでしょうか。
公開済みの情報を絡めて、今後を予測してみる
資料②裏にある「スタートアップ・エコシステム拠点都市(8か所)」という記述にも注目です。すでに2020年には都市選定が完了しており、都市名も公開されています。
2030年を迎える頃には、デジタル情報の取扱量が2020年の15倍になると見込まれています。アジア最大のスタートアップハブ形成を目指すのであれば、選定された地域を中心にデータ処理速度や容量について現在とは桁違いの技術を導入する必要があります。そこでは次世代の情報通信網やハイパースケールデータセンター網が張り巡らされるはずで、同時に最先端のテクノロジーが求められるでしょう。
私たち建設業界はこれらのあらゆる施策に関わることができます。工場建設や装置設置などのハードだけでなく、今後数十年を見越した高速・大容量が可能な技術の導入もマネジメントできます。自社だけでは不可能かもしれませんが、建築物という器を使って幅広い人材や技術を集めるのであれば戦略の実現を大いにサポートできます。
OSINTで使える情報を長く追うと、小さな変化を捕まえられる
日本が上記5つの柱を重視する流れについて、実は2022年夏頃から兆候がありました。当時は米中の経済政策がぶつかり合ってニュースになっており「中国が欲しがっているけれど手に入らないもの」、言い換えれば「西側諸国が強みとして持っているもの」が浮き彫りになっていたからです。
西側の有力分野としては、例えばオフィス複合機、高性能医療機器、半導体(材料や装置を含む)、電子部品、新素材、バイオ医薬品などが挙げられます。このほとんどが日本産業界の強みとかぶるため、米国も力を入れると予測し、日本政府の施策もその期待に応えるのではないかと考えました。そして2023年4月G7広島サミットの目前に「対日直接投資促進戦略」の具体的なアクションプランが発表されたのです。
OSINTで使える情報には、GDP国内総生産(内閣府)、国内建設投資額推移(国土交通省)、経常収支状況の推移(財務省)、対外純資産国別ランキング(GLOBAL NOTE)、日本の人口推計・人口ピラミッド(総務省ほか)など多々あります。これらの情報と日々のニュース、現場での気づきを総合すると、これからの情勢が見えるようになります。
私が若い頃だとこういったデータは「白書」のような紙資料にしかなく、自分で探して図書館などへ見に行かなければいけませんでした。しかし、今はインターネットを使ってさまざまな情報を即座に得られます。長年同じ統計を追っていると小さな変化にも気づけるようになり、世の中が非常に面白くなります。
今回のこの資料もまだまだ読み込めます。次回は「半導体」に注目して「対日直接投資促進戦略」との関係を考えてみましょう。