【CRE戦略】は不動産(土地・建物)の活用を経営戦略の一環として捉え、不動産を効果的に活用して企業の全体価値を向上させていくものです。運用を通して、最終的には不動産価値ではなく企業価値を上げるのがゴールとなる戦略です。
【PRE戦略】は同じように不動産(土地・建物)を活用しますが、公共公益の目的を保持しながら運用されるのが大きく異なる部分です。所有する不動産について財政的な視点に立って見直しを行い、不動産投資の効果を最大限向上させることがゴールになります。数十年先の未来や変化も鑑み、公的財産の有効活用を再検討できる仕組みを準備しなければいけません。
それは「ROA(Return On Assets:総資産利益率)」です。どちらもこの「ROA」を重視して構造を見直して新しいサイクルを構築すれば、どちらもそれぞれのゴールに到達できるのです。
不動産活用で重要となる指標「ROA」とは何か
「ROA」をもとに不動産活用を改善する動きは民間企業に一日の長があります。そこでまずCER戦略をモデルに、この指標をどう見るのかを解説します。
従来のCRE戦略は「バランスシート(BS)主義」に基づいていました。不動産をストックし、賃貸や売買から利益を得ようとする考え方です。不動産価値が年々上がっていくような社会情勢であれば、なるべく多くの優良物件を抱えているだけでも利益が生まれました。しかし景気が変動し、今は不動産の所有にもリスクが生じる時代です。そこで取り入れられたのがフロー型の考え方です。
フロー型の場合、多くを所有するのではなく、本当に必要な資産を吟味して不要な資産は手放します。その代わり、残った施設では最大限の運用を目指します。いわば所有するプール容量は小さく減らし、代わりに水を注ぎ込む水道管を太くして流量を増やし、その循環を早めて効率的に水量(利益)を上げていく方法です。これは「BS主義」に対して「オペレーション主義」と名付けられるでしょう。
この方法を採用して利益を上げるには2つの道があります。
第1に「プロフィット・センターの強化」です。収益を生みやすい施設・事業があれば積極的に注力し、最大利益を目指します。水道管を太くして流量をどんどん増やす施策です。第2に「コスト・センターの整理」です。やみくもに所有するのをやめて無駄を生む施設・事業はカットします。大きすぎてリスキーなプール容量を減らして適正な大きさに整える施策です。
このサイクルがうまく回っているかどうかを見る指標が「ROA」です。なぜなら「ROA」は次のような式で求められる数値だからです。
ROA = 純利益/総資産
分母となる総資産が少なければ、相対的に利益の割合が増えます。無駄な資産をカットして実現できる部分です。また、分子となる純利益が多くても、相対的に利益の割合が増えます。水道管の流量を増やしてプールの水量を増やす部分です。
この2つの数値をコントロールして「ROA」が向上すれば、企業のCRE戦略は成功です。
製造業をモデルに、プロフィット/コストを確認すると
例として製造業をモデルに上記の「プロフィット/コスト」を確認してみましょう。
本社・研究開発施設・人財育成施設・生産施設などはインテリジェンスの塊なので、より強固な自社知財を蓄積する必要があります。プロフィットを生み出す施設の典型となるようなところです。ただしこれらをバラバラと配置するとコストがかかるので、集約して連携を高めるようにします。
連携構築といっても、ただ場所を1カ所に固めるだけでは効果は生まれません。ITやDXを取り入れて業務フローを整理し、多分野にまたがる仕事や人々がシームレスに動けるように仕組みを作るのがポイントです。
販売や生産を行う施設を見直す際は、利益があまり上がっていない拠点をコストとして考えます。業績が低い支社や工場を統合して拠点を減らすと、無駄をカットして総資産を収斂させる効果があります。
これら全体の構造を上手に組み上げている企業の1つは、SONYです。AV機器開発を中心としていた事業構成は年々変化し、現在はゲーム機器などのエンタメ分野、銀行などの金融分野、イメージセンサーなどの精密機器などに注力しています。多角的ではありますが無駄がなく、筋肉質の経営を実践できている代表的な企業といえるでしょう。
これまで述べてきた「ROA」を重視する施行は、公的不動産を扱うPRE戦略にも応用できます。自治体の不動産活用でも従来のストックを重視した「BS主義」から脱し、施設運用を通じて収益を作る「オペレーション主義」へ体質を変えればいいのです。
自治体には、自治体だからこそ選択できる方法があります。次回はPRE戦略において「ROA」をどう活用すればいいか、詳しく見ていきます。