ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

建設業界の自動化元年、人間とDX・AIテクノロジーをどう共存させるか

第2回全てを載せられるデバイスとして、建築物を考えよう

前回は、今後のビジネスモデルにとって連携と自動化がカギであること、その実現に向けて私たちの意識も変える必要があることをお伝えしました。この流れはもう誰も抗えません。乗り遅れないようにするために、私たちは建設プロジェクトや建築物をどのように捉えればよいでしょうか。

実は、大いに参考になるモデルがすでに存在します。それはスマートフォンとアプリケーション(以後、アプリ)の関係です。皆さんがスマホを買う理由は単に「カッコいいから」ではないですよね。1つのデバイスの中にさまざまな機能を持たせることができ、それらが私たちの生活に直結する、または生活の質を上げてくれるからこそ多少高価でも買うわけです。

スマホがあれば、共通したOSを介して電話だけでなくカメラやオーディオ、ゲーム、メールなど多種多様なアプリを制御できます。アプリ同士が連携して使い勝手を向上させているケースも珍しくありません。そして分かりやすいインターフェースによってストレスが少ない運用を可能にしています。

私は、建築物における連携・インテグレーテッド化も同様の構造にすればよいと考えています。

スマホをモデルに、施設建築を考え直してみると

スマホが登場する前は、写真を撮りたくなったら私たちはカメラを準備し、ゲームをしたくなったらゲーム機を買っていました。ニーズについて個別に捉え、個々のツールによって実現させていたといえます。しかしスマホが登場するとニーズの叶え方は一変します。スマホというデバイスが窓口になり、その小さな筐体をカメラとしてもゲーム機としても扱えるようになりました。その窓口はインターネットにつながり、ビッグデータまでも手元で利用可能になりました。

この構図は「従来の施設建築の姿」と「今後あるべき施設建設」の姿にも当てはめられます。

従来の建築物は人やビジネスを入れる単体の箱として存在していたため、そこで何かをしたくなったら相応の設備やツールを自前で調達しなければいけませんでした。ただし建物の形が欲しいものと適合するとは限りません。インターネット設備を入れたくてもインフラが届いていない、人を集めるビジネスをしたくても広いスペースが取りにくい、など不満点が生まれます。

しかし、施設建築をスマホと同じような媒介として考えればどうでしょうか。企画時から複合的用途を想定し、あらゆる事業要素や形態と連携する前提で建物を創れば利用方法が広がります。ITネットワークはもちろん、空間の変更、財務など運用方法の変更、ロボティクスなど新たな技術の搭載なども見越せば、まるでスマホが多彩なアプリを制御するように施設も同様の制御性を持てるのです。これは近年のお客様のビジネスニーズにも合致します。

スマホをモデルに、施設建築を考え直してみると

建築物がデバイスになれば、存在価値と意義が高まる

このようなコネクテッド施設が建築できると建築物自体の存在価値も高まってきます。施設が単なる「人やビジネスを収める箱」ではなく、スマホと同じように「なくてはならない媒介デバイス」になれるからです。同時に、その建設に関わる私たちの役割や求められるニーズもより高度になるでしょう。建設業界に留まらない視点や発想で物事をつなげていかなければいけないからです。

私は、将来の施設建築はそこまで究めるべきであるし、私たちもそれを実現できる力をつけなければいけないと思っています。そのために不可欠なのが前回から述べているDX化・自動化です。コネクテッド施設は膨大なデータを収集し、分析して効率的にソリューションを提供する必要があります。これは人力で賄えるものではなくテクノロジーを活用して実現できる姿です。

理想を形にするには具体的な目標がなければいけません。私は以下の数値の実現が「複合的用途」を持ったコネクテッド施設につながると考えています。

  • 施設建築が必要なモノ・サービスの90%とつながって制御できる
  • 現在の施設建築で運営管理・資産管理にかかっている労力を90%削減する
  • 現在の施設建築で計画・設計・生産・工事に必要な知的労力を90%削減する

このような3項目を設定したのは、現場でさまざまな労力削減を実現するDX化・自動化が、ひいてはコネクテッド施設の機能とも直結すると考えるからです。従来の属人的な能力を駆使した建設管理では媒介になれる施設建築は到底不可能です。これまでにない理想の建築物を建てるためには、工程も手法も入れ替えなければいけないのです。

数値目標を達成するなら、業界としての定義が必要

上記の3項目がきちんと満たされているかどうか、確認するには感覚値ではなく厳密な定義が必要です。達成するまでのプロセスにおいて「今どこまで来ているか、これから何を改善するか」が見えなければ、理想は絵に描いた餅になってしまうからです。

達成度の基準については、米国自動車技術会(SAE)の物差しが応用できるのではないでしょうか。彼らは自動車の自動運転技術について明確なクリアポイントを設定して、何をすべきかを共有しています。コネクテッド施設の達成度を測る際も、同様に明確な基準を設ければ業界全体で取り組むことが容易になります。

次回は、コネクテッド施設に近づいている現在の建設業界の動向について、詳しくお伝えします。

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