前回は、コネクテッド施設の構造とその達成度を測る物差しについてお伝えしました。確実に実現させるには、今ある建設サプライチェーンを大きな1つのかたまりとして考えるのではなく、プロジェクトの過程によって達成度を見る必要があります。なぜなら、それぞれの過程で抱えている課題が異なっているからです。
■第1ステージ「発注者のステージ」
ビジネスの創造・戦略を生み出す過程であり、企画を立てて建築計画に落とし込み発注を検討するステージです。目標や要求条件の策定と同時に制約条件を抽出し、これらをクリアする施設戦略を組み立てます。建設プロジェクトのための基本計画を策定し、発注図書を完成させて次のステージへ進みます。
■第2ステージ「発注者・受注者のステージ」
どんな施設を建設するかを想定した後、発注を実施して受注者を選定し、設計を行います。その設計を基に工事施工を進めて実建築物を完成させるのがこのステージです。ここから本格的な建設プロジェクトへ移行するといえます。工事施工では設計と連動した精度の高い生産計画・調達計画がカギとなり、時間や費用などのコストをいかに削減するかも大切な要素です。
■第3ステージ「発注者のステージ」
発注者に建築物と竣工図書データが引き渡され、データを基に施設運営とビジネスを展開するステージです。建設プロジェクトの最終目的は発注者が事業運営で良好な成果を得ることであり、私たちはここでより良い結果を残すために第1・第2ステージを注視して実行しなければなりません。
先端をいくプロジェクトにおいて「第1ステージと第2ステージ途中の基本設計まで」「実施設計以降、成果物が引き渡される残りの第2ステージ終了まで」では、「すべきこと」も「求められる機能」も全く異なることに注目してください。
それぞれのステージでのターゲットも異なります。第1ステージで求められるのは、前倒しできる項目をできるだけ早く実行する「フロント・ローディング」ですが、第2ステージに入って求められるのは決めた工程を同時並行で効率よく進める「コンカレント・エンジニアリング」です。未だにこの2つの区別が曖昧なままプロジェクトを進める例が多く見受けられます。むしろ第1ステージで「フロント・ローディング」を実施するどころか、旧来の習慣に引きずられて作業がどんどん後ろ倒しになるケースが頻発しています。
ただ、ステージごとの目的と動き方を明確に意識すれば、前回示した90%の労力削減を展開しやすくなるのも事実です。すでに各ステージに適応するDX化・自動化に向けた取り組みが進んでいるので確認していきましょう。
基本設計まで:ベーシックなプランなら自動化は目前
建設プロジェクトの総コストは、基本設計の時点でほとんど確定しています。この施設でどんなビジネスを展開するか、人や予算はどれほどあるか、利益をどれだけ上げるかなどの事業組成のほとんどがここで決まるからです。その上で「QCDSE(品質・コスト・納期・運営サービス・環境)」という与条件を考慮し、発注者が施設を使って最大限のパフォーマンスを実現できる計画が立てられます。
施設の物理的条件が確定するのもこの過程上です。構造・基礎・外装のほか各設備方式に何を選ぶか、同時使用率の設定などを行い、予算内で建てられるかどうか、施設の全体像が出てきます。
これらのビジョンと物理的条件を擦り合わせるのが基本設計までで、多数の要素が絡むため従来は不確定要素(コスト確定や納期設定など)を数多く残していました。しかし今はシステム開発が進み、諸条件を入れると一定の基準をクリアする設計をアウトプットするところまで来ようとしています。マネジャーは、効率的に自動生成された設計をベースに、細かな企画要素や発注者のニーズを反映させるよう修正を施す役割を担うようになるでしょう。
実施設計以降:資機材管理の自動スケジュール化で手順短縮
実施設計以降でも自動化が検討されています。実施設計と連動する生産・調達プロセスでは関連する要素が増え、調達期間にもバラツキがあるため、以前は突発的な変更でも融通がきく管理者が経験値で仕切っていました。しかし2000年代に入って大手ゼネコンはこの属人性に危機感を持ち、工務部門のエンジニアリング技術を強化してデータ共有と調整を行うようになりました。
この業務をさらに自動化する開発が進んでいます。システムが完成すれば、鉄骨や杭、仮設や地盤改良、変電設備調達などの先行調達品目で、バラバラに存在している調達条件・数量・必要な納期を入力すれば自動的に調達計画を組み立ててくれます。
マネジャーに求められるのは、DR(デザインレビュー)を設けて秩序正しく計画を進める差配です。決定が必要なポイントで発注者に判断材料を渡し、決断を促し、次のプロセスへ滞りなくつないで後送りを徹底防止していく。プロジェクトを円滑にするために人と折衝する仕事は、いくら自動化が進んだとしても機械に任せられない領域です。
設計+自動化+人、全てがそろって効率化が実現する
発注者のビジネス計画、建設現場での施工条件など、関連要因が複雑に絡み合って動くのが建設プロジェクトです。これまで人力でプランを練っていた設計プロセスは、少しずつですが自動化されようとしています。建築基準法や各種基準などクリアしなければいけない制約条件をすべて満たした設計が、これまでにない速さで形になる未来です。
その上で、さらに発注者のニーズやビジョンを実現するために動くのが私たちマネジャーの役目です。プランを見て何が不足しているか、どう動けばお客様にとって有効かつ効率的か、何を決断して進めるべきか、配慮しながら発注者やプロジェクト関係者に伝える存在として欠かせません。間に立つ人がいなければDX化・自動化も進まないのです。
次回は、自動化の波が来る中で私たちがどんな人財となればいいのか、詳しく述べていきます。