ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

建設業界の自動化元年、人間とDX・AIテクノロジーをどう共存させるか

第4回求められるのは、個別設計より効率的なアッセンブリ

前回は、基本設計・実施設計の現場で進んでいる自動化と、その中で果たすべきマネジャーの役割について紹介しました。

私たちの大切な仕事が「お客様である発注者」と「専門家集団である設計者および施工者」との橋渡しであることは変わりません。しかし今後は加速度的に進むDX化・自動化を考えると、今までと同じ働きかけではうまく回らなくなるだろうとも予測します。このままではせっかく進化していくテクノロジーの力を最大限に発揮させるのは難しいと考えるからです。

人の最大の強みである発想力と調整スキル、そこへ効果的にテクノロジーを掛け合わせて活用するにはどうすればよいか。今回は人財面から見直してみます。

個人に求められるスキルは大きく変わり始めた

まず大前提としてお伝えしたいのは、個人に求められるスキルと性質の根本的な変化です。以前なら、設計者は図面の数値や形状について「なぜそうなるか」の理屈を理解し、かつ設計デザインとして巧く納め込む力が重視されていました。ここ10年ほどでは、品質に併せて運営や環境、さらにはスケジュールやコストまでを意識した設計が求められるようになっています。設計にマネジメントの要素も加わるようになったのです。

デザインやマネジメント技術のノウハウは徐々に洗練され、今は経験が浅い若手でも一定のプロセスを踏めば業務で使える設計を描けるようになりました。ただし効率的なノウハウが流通している分、以前なら把握していた「なぜそうなるか」の理屈の部分は明らかに希釈されてしまい、そこまで知らずとも形としては問題ないというケースが増えています。

この現象について一部の人は否定的に捉えるでしょう。しかし、私はもう現実として受け入れたほうがよいと考えています。なぜなら、今後必ずやってくる自動化の潮流に乗るのであれば、意識的に割り切ってしまわなければいけない部分だからです。

確かに豊富な知識を持っていれば現場で役立つときもあります。ただ、そういった属人的なスキルを頼りにし続けていると自動化の導入は進みません。むしろ個人が持つ知識はどんどん共有できるシステムに落とし込んでストレージ化し、私たちはベーシックな設計から早く開放されて次のクリエイティブな作業へ進んだほうがプロジェクトはうまく回ります。個人的知識は自動化と反比例する要素です。これに気づいて方向転換できるかどうか、私たちは大切な分岐点にいます。

構想・企画~基本設計におけるプロセス

設計者というよりインテグレーターの能力を高める

代わりに重視されていくのが「インテグレーターとしての能力」です。一から自力で設計する力よりも、ニーズに合わせた材料やアイデアあるいは複合的ユニット体を探し出して集約統合する力が求められます。いわば自家用車の製造過程のようなもので、最適なモジュールを組み合わせて最大限のパフォーマンスを得るスキルが建設業界でも必要になってくるのです。

組み合わせに使える要素は、従来に比べれば膨大です。前回述べた基本設計におけるお客様のニーズ、ビジネス戦略もそうです。コストだけでなく具体的な資金調達も考えなければいけません。選べる工法は年々増え、竣工後にお客様が展開したいビジネスモデルも日々新しい切り口が生まれています。

実施設計における資機材の種類設定だけでもたくさんあります。施工時は生産・調達に不確定な要素が増えるため、どうやってカバーするかも用意すべきモジュールの1つでしょう。

施設建設という物理的な成果を円滑に提供するのはもちろん、建設前の計画・施工中の調整・建設後の運用までも視野に入れるのがマネジャーが担う領域であり、人ならではの価値を発揮できるフィールドです。何をどう合わせて望みの機能を創出するか、アッセンブリ能力がものを言うのです。

将来は自動化されるとしても、まだ人が活躍できる場所

今、具体的にDX化・自動化が進んでいるのは基本設計や実施設計における土台の部分です。すでに分かっている条件を入力し、従来のビッグデータと照らし合わせて最適解を即座にアウトプットするシステムが構築されつつあります。

デコレーションケーキで言えば、土台となるスポンジケーキ生成までは自動化するようなものです。誰でも丸くてふかふかしたスポンジケーキまでは失敗なく出せます。しかしこの先、適切にデコレートしてお客様が本当に欲しいケーキへ仕上げていくのは、人であるマネジャーの仕事です。そしてこの差異が個人や企業が他より優位に立つ「差別化」の部分にもなります。

システムは、可能性がある要素を瞬時に何通りも組み合わせるのは得意です。しかし、お客様の要望や現場の状態まで配慮して最適な状態を選んだり、誰も思いつかないような発想で人や物事を結びつけたりする能力は人間のほうが勝っています。私たちはDX化・自動化で効率化できるところは積極的に効率化し、その上で人でしかできない領域をカバーできるようにすべきです。

次回は、お客様の本当のニーズはどこにあるか、そのために私たちは何をすればよいかを考えます。

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