2020年春から始まったコロナ禍は、私たちの暮らしや考え方を変えるきっかけになりました。建設業界への影響も大きく、取り巻く環境は以前にも増して激変しています。世界経済がやっと停滞期を抜けて回復期を迎える今、私たちはどのような未来を描いていけばよいのでしょうか。今シリーズでは変化が著しい3領域をピックアップし、これまでの課題と今後の処方箋について述べようと思います。
巨大物流施設と「自動運転」技術をどうつなげるか
では第1の「サプライチェーン網」、その中でも実際に物を運ぶ現実物流について現状を確認してみましょう。皆さんもご存じのとおり、近年はさまざまな交通結節点となる場所に巨大物流施設が建設されています。これは近い将来に実施されるであろう「自動運転」との融合というプラス面への準備と、2024年4月から採用された「働き方改革」による変化を補う動きだといえます。
また、巨大物流施設の内部は単なる営業倉庫の役割を超え、自動マテリアルハンドリングを採用する施設も数多く出現しています。AmazonやAppleで想像していただくと分かりやすいと思いますが、小さな物品でもロボットが機械的にピックアップして梱包し、配送手配までを行えるシステムです。このスキームはある程度の完成に近づいていますが問題はその先です。
配送では現実の道路やトラックなどを利用します。しかし人員不足や「働き方改革」を考えると、従来のように人に頼った物流には限界があります。この問題の解決策として有力なのは「自動運転」との連動なのですが、ここにはいくつかのハードルが残されています。
まず一般道を自在に走行できるほどの安全性がまだ担保されていません。この点を緩めることは許されず、認可に至るまでは時間がかかりそうです。もう1つの問題は、現在導入が進みつつあるEV(電気自動車)では大量輸送に見合う馬力が不足することです。現在のEVでは4.9トンほどが最大値といわれています。FCV(燃料電池自動車)なら大量輸送が可能ですが燃料補給設備などのコストが高く、エネルギー効率についても課題があります。
高速道路のSA・PAに着目し、スムーズに接続させる
上記のような環境・条件で、現実物流における課題をどう解決するか。そこで私が提案したいのが「高速道路網とFCVを組み合わせた物流拠点」づくりです。
解決のカギとして「自動運転」を取り入れるなら、高速道路内のみで運用してはどうでしょうか。一定条件下で走行可能なレベル3の技術でも対応できるはずです。一般道よりもやりやすく、長距離輸送を自動化できれば人員不足もカバーできます。その際の巨大物流倉庫は郊外ではなく、高速道路のSA・PAに建設すればスムーズに高速道路網へ接続できます。SA・PA周辺の土地には充分余裕があります。
巨大倉庫を物流の大動脈である高速道路に直結させ、パワーのあるFCVを導入して「自動運転」による大量長距離輸送網を構築する。いわゆるラストワンマイルの部分は人を介したり、小分けしてEVによる「自動運転」を導入したりしてもいいでしょう。課題の根本となる大きな部分は仕組みから解決し、例外的な部分のみ人がカバーするのが最も効率的です。
私自身もこの提案をさまざまな方面で行っていますが、この事実にいつかNEXCOが気づいて採用してほしいと思っています。
現象の良い面・悪い面を知った上で、どう動くか
次回は「サプライチェーン網」の情報物流について考え、以降で「インバウンド施策」と「不動産の再構築」について見直していく予定です。
- 第2回
技術先進国を堅持するサプライチェーン網② 情報面での現状と今後
- 第3回
新局面のインバウンド施策と考え方① あえて富裕層へ偏向する重要性
- 第4回
新局面のインバウンド施策と考え方② 日本の潜在的魅力はまだ眠っている
- 第5回
国内インフラ・不動産の再構築① 償還期を迎える建築物をどうするか
- 第6回
国内インフラ・不動産の再構築② 地方都市で“外貨”を稼ぐ施設づくり
共通するのは、どの課題も「これから」を発展させるために必須である点です。良い面・悪い面の両方がありますが、どちらも把握した上で何を実践するか。それが肝要だと思います。