前回は物を運ぶ現実物流について考えました。データを運ぶ情報物流も2つの側面から検討ができます。1つはデータを流通させるテクノロジーについて、もう1つはデータをストック・制御するデータセンター建設についてです。この分野の進化は凄まじいと形容してもいいでしょう。
日本でもメトロネットワークと呼ばれるデータセンター網が着々と構築されています。例えば千葉県印西市・白井市、東京都府中市・多摩市など、都心を取り巻く衛星になるような拠点には「ハイパースケールデータセンター」と呼べる巨大なデータセンターが建設されています。
そこから地域を拠点とする中規模「リージョナルエッジデータセンター」がつながり、さらにその先の末端に「ローカルエッジデータセンター」「マイクロデータセンター」「コンテナ型データセンター」などユーザへ直結する拠点がつながります。大中小規模のそれぞれの役割を果たしながら隅々まで網羅するよう、データネットワークが形成され始めているのです。関連施設についてはすでに空前の建設ラッシュが起こっています。
地上有線通信網と低高度宇宙の無線通信網
地上有線通信網については、次世代パワー半導体の進化が期待されています。前回紹介した巨大物流倉庫と高速道路網、「自動運転」をスムーズにつなぐには、パワー半導体による高効率のエネルギー制御が必要です。従来の半導体では対応できないほどのデータ処理量と電力効率を伴わなければいけないからです。
高速にデータを処理する分野では、NTTが主導して進めている「IOWN(アイオン)」プロジェクトがいよいよ実用化に入っています。2023年3月からは第1弾の商用サービスとなる「IOWN1.0」提供が始まりました。さらに2024年8月にはNTTと中華電信が協業し、日本と台湾の国際間通信でも「IOWN」を活用して遅延と揺らぎのない環境づくりを目指しています。
データ伝達については地上有線だけでなく無線、それも低高度宇宙を舞台にしたテクノロジー合戦が繰り広げられているのはご存じでしょうか。イーロン・マスク氏が進めるスペースXの「スターリンク」は知名度が上がってきました。すでに4万機以上の衛星が配備されているといいます。そのほか、Amazon「プロジェクト・カイパー」は約3,000機の衛星配備済み、ソフトバンクが出資しているOneWeb「Eutelsat OneWeb」は7,000機を目標に配備がなされているようです。
これらは誰もが参入できる世界ではなく大資本家(ビリオネア)のみが可能なビジネスです。将来はどうしても数社が占有することになると思いますが、ソフトバンクがどこまで分け入ることができるのか注目です。6G・7Gの世界では、きっとこれらのインフラが大いに活用されるのではないかと思います。
デジタルとリアルをつなげるプレーヤーがまだいない
細分化して見ていくと、それぞれの分野でどんどんテクノロジーは進化しています。前回の現実物流の世界でもそうですし、今回の情報物流においても地上有線・低高度宇宙無線での展開があります。これらが社会の中で貢献できる産業へ育つためには、電力・電圧を高効率で制御する次世代パワー半導体、光電融合技術で高速処理と高効率化が可能な「IOWN」などが必要です。
しかし、これらデジタルの最先端技術について「どうやってリアル世界へつなぐか」「どうやって現実のインフラにしていくか」は未だ大きな課題です。相互の領域を自由に往来できる人的プレーヤーがまだいないのです。
講演やセミナーなどで企業の方とお話をしていると、この空白に気づいている方はたくさんいらっしゃいます。ただ社内には実現できる事業やプロジェクトがない。ならば「積極的にデジタルとリアルの階層をつなげば、誰も手をつけていないぶん大きなビジネスチャンスになるのではないか」というのが私の見解です。
これから構築されるであろう社会を図示すると、エネルギーを生み出す発電所、送電、ガスや上下水道のインフラ、鉄道や車などの交通機関、病院や学校などの地域コミュニティ、工場やビルなどの施設、そして個人デバイスとの接続など、あらゆるものが1つのネットワークに組み込まれていくでしょう。むしろ、別々に存在しているものをネットワークに取り込んでつなげていかなければ、社会に資する全体最適を図るのは難しいともいえます。
先端技術を知り、ネットワークを補完できるビジネスを探す
つながり方には、繰り返し提示してきたように物を介する現実物流とデータを介する情報物流があります。この分野にどのような技術が生まれてどうつなぐのか。技術的につながる前には、必ず人による気づきと発想、起案と実践がなければ形になりません。
考え方によっては、発電所を必要とせず再生可能エネルギーや自給自足のエネルギーだけで運用する「オフグリッド」などもあり得ます。井戸水や太陽光だけで生活をまかなうには、得たエネルギーを効率よく活用する必要があり、次世代パワー半導体やAIなどを使った情報処理が低コストでできるようになれば実用化に大きく近づくでしょう。大都市のネットワークだけでなく、地方でも構築できるネットワークも求められています。
社会全体を見たときに、つながりが途絶えている部分にフォーカスすることで、私たちのビジネスが世の中の役に立つと考えます。