ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

コロナ禍の停滞期を乗り越えた今、注目すべき3つの課題と処方箋

第4回新局面のインバウンド施策と考え方② 日本の潜在的魅力はまだ眠っている

前回は、日本の「インバウンド施策」について観光客数よりも1人当たりの支出額、観光収入を伸ばすべきだというお話をしました。観光庁が出している2030年の観光収入目標額15兆円を達成するには、広くリーズナブルなサービスを行うより、富裕層向けの高価格帯で勝負したほうが結果につながります。端的にいえば「B級」ではなく「A級」のサービスを作るべきなのです。

国内では、すでに「A級」を上手にアピールして成果を上げているケースがいくつもあります。例えば、西伊豆では2022年に電気や水を全て自然エネルギーから自給するオフグリッド型方式を採用したホテルがオープンしました。すでに国内外の富裕層がリピート利用して高効率の収益を得ています。北海道では余市がワイナリーを前面に押し出し、希少価値の高いワインを飲める宿泊施設(オーベルジュ)を続々と建てています。

その他、地域による食材・伝統などから生まれた食文化を楽しむガストロノミー(フード)ツーリズム、医療や癒しのサービスを受けるメディカルツーリズム、スポーツ観戦などに焦点を当てたスポーツツーリズムなどが近年実績を伸ばしてきました。高価格帯の階層に見合ったラグジュアリーホテルの建設計画は全国で進行中です。

旅行ではなく、短期滞在する訪日観光客のための施設も増えてきました。古民家や空き家を使った民泊のようなサービスもあります。これらをどう融合して利益を出すツーリズムに広げていくかが、今後のカギを握っています。

価格差をつける手法に慣れなければいけない

日本ではまだ抵抗がありますが、国内客と訪日客の価格差別化も観光収入アップに大きく貢献します。国内客に比べ、訪日観光客向けには3倍、4倍などの値段をつけて提供する方法です。外国では差別化は当然のこととして受け止められており、日本でもいつかは許容しなければいけない考え方だと思っています。なぜなら日本では人口減少が見込まれる上、少ない資源で国を賄っていく未来が待っているからです。価格差別化なら効率よく外貨を獲得できます。

前回から述べている富裕層向けのツーリズム開発はそのうちの1つです。まず地域の魅力を生かした「A級」を創出して、スーパー富裕層が使いたい額をいくらでも落としていけるような場所を作り、トップブランドを形成する。その評判や高評価をしっかり拾って日本全国へ浸透させていく。全国へ染み渡るとさらに富裕層向けのサービスを創出しようとする流れが生まれていく。

日本人はつい「平等」や「公平」を気にして差のないサービスを提供しようとします。しかしもうその考え方は意識的に変えたほうがよいのではないでしょうか。世界中が階層化へ向かって動いているのは仕方のないことで、日本だけが「平等」を保持するのは難しくなります。また、突き抜けていないサービスはせっかく日本に関心を寄せてくれた富裕層のニーズに応えられません。

富裕層向けのツーリズムができると国内雇用や賃金にも良い影響が出ます。実際に訪日観光客が多い地域では人手が足りず、水準より高い賃金で求人が出ています。

草の根に浸透するマーケティングを選ぶ

ラグジュアリーツーリズムの実践は増えてきましたが、未だ弱いのは日本のマーケティング戦略です。日本に関心を持つ人たちに響くのは、大手観光会社や航空会社のキャンペーンではありません。着火剤は「トリップアドバイザー」や「エクスペリア」などのサイトであり、ここから「Instagram」や「YouTube」などのONE to ONEメディアへ派生していきました。このような、これまでのセオリーとは異なるマーケット展開を把握しなければ成功はおぼつかないでしょう。

むしろ、このルートの重要性を象徴しているのは地方自治体かもしれません。2023年にニューヨークタイムズ紙が発表した「2023年に行くべき52カ所」に岩手県盛岡市が選ばれて話題になりました。2024年には山口県山口市が選ばれています。どちらの都市の魅力もまだ日本国内には充分に知られていないのはとても勿体ないと思います。

ただ、国内の富裕層はこういった地方の魅力に気づき、海外からの富裕層と同じように積極的に新しいツーリズムをすでに利用しています。彼らも日本の観光収入を牽引する大きな要因です。日本が観光立国化するためには国内外の富裕層がお金を落とせる受け皿を作ることが不可欠です。

海外プラットフォームへの手数料も無視できない

もう1つ忘れてはいけないのが海外プラットフォーム依存からの脱却です。訪日観光客が日本で消費する分を「収入」、日本人が海外旅行で消費する分を「支出」として考え、「収入−支出」の数字を見るサービス収支のうちの「旅行収支」という指標があります。2023年の日本の「旅行収支」は3.4兆円の黒字ですが、実はサービス収支全体では3兆円の赤字なのです。この正体はAmazonやAppleなどのテック企業に支払っている使用料や広告料です。私たちはサービスを利用する際、収入の多くを海外プラットフォームに持っていかれているのです。

仕組みを作って自然に収入を増やすテック企業の姿勢は、ある意味見習うべきものでもあります。私たちも何も卑下することなく「海外からしっかり払ってもらう感覚」を持つ、言い換えれば「がめつい感覚」を持ってもいいと思っています。技術と文化の先進国としての誇りは失わず、それだけのお金をいただけるくらい私たちの価値が上がったのだと考えれば、富裕層向けのラグジュアリーツーリズムも考えやすくなるのではないでしょうか。

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