「地方都市」が抱える最大の課題は、その地域だけで経済を循環させて完結させるのが困難であることです。人口流出や少子高齢化が進んで人口が減る中、収益を上げるためには地域外から人やお金を集める施策が必須ですが、自地域内のリソースでは力不足です。「大都市・中核都市」では可能なことも「地方都市」では一気にハードルが上がります。
現在、多くの公共施設は地域内に点在している状態ではないでしょうか。例えば、役所・庁舎、図書館、保健センター、文化ホールなどはバラバラにあると利便性は落ちてしまいます。まずこれら単体用途の施設を集めて統合施設化します。その際には必ず「ダウンサイジング」を意識し、現在・将来の住民規模に合わせた大きさで設計します。そこで集められる収入源の循環で収支が回るレベルまで小さくするのです。
住民にとって欠かせない公共施設をしっかり一カ所にまとめられれば、人の流れは必ず起こります。そしてこの統合施設を中心に新たな商業施設、映画館、小売店群などビジネスにつながる施設を配置します。集まった人々に向けて、お金を使って消費したくなるコンテンツを一緒に集めておくのです。
これが「地方都市」における有効な「国内インフラ・不動産の再構築」の基本です。バラバラだった既存施設を適正規模で統合し、マネタイズできるビジネスエリアも一緒に設置する。この基本形の上で各地域の特色を生かした工夫を加えていきます。
ブランドとなる強い個性を「A級」まで引き上げる
その地域の特産品や産業があれば、それを生かしたビジネスを構築します。全国各地には江戸時代の藩体制の頃から育んできた特色・文化・特産物が必ずあります。それが何なのか、一度自分の地域を深く精査して他地域にはない強みを見つけてください。そして大切なのは、その特色を「A級」に作り上げていくことです。「B級」ではなく、その地域に来た人だからこそ体験できる一流のサービスや商品を準備してください。本物の魅力は国内外の観光客を惹きつけるからです。
お酒が美味しい地域なら、美しい清らかなパッケージで日本酒を包み、オーベルジュのような洗練された施設できちんとしたサーブを受けられる場所を作る。その際に提供するものも「この場・この日」ならではの特別感を演出してお客様に喜んでいただく。そして「また来よう」と感じてもらう。お客様単価が高いサービスを軌道に乗せれば雇用でも好条件を出せるようになり、良い人が良いところへ集まるようになります。
現地の特色を生かし、「統合化施設の建設」というハードと「A級サービスの提供」というソフト双方を引き上げる施策なら「地方都市」でも再現が可能です。さらに施設再構築の面では別の方法もあります。
増大する空き家・空き施設を有効にリニューアル、コンバージョンする
これは今後の主流ビジネスとして大きく進展が期待される一大分野でもあります。それは「既存施設のリニューアルおよびコンバージョン(用途変更)」です。具体的には、1983年以降の竣工で「新耐震基準」をクリアしているビルを対象に、未来のビジネスニーズにも対応できるスケルトン化を進めていく事業です。
「新耐震基準」をクリアしているビルなら古くても安全性に保証があります。お金をかけて立て直すよりもはるかに低コストで、使える施設にリニューアルできるのです。骨組みや構造はそのまま残し、インフィルは完全リニューアル、新しいインフラを装着して外観をリデザインすれば、今でも魅力ある建物に生まれ変わります。オフィスビルを分譲住宅や賃貸住宅に転換することも可能です。
これはぜひ大手ゼネコンではなく、内装会社やディスプレイ会社に手がけていただきたい案件です。コロナ禍を経て「働き方改革」の概念がインフィル設計にも好影響を及ぼしている今、この業界の皆さんには多様なプランを組める実力がついていると感じているからです。
テレワークがさらに浸透すれば人は日本全国どこからでも働けるようになり、これは「地方都市」にとっても新たな住民を増やせる良い機会です。個々の活動だけでなく、適度に人が集える場所も創出すれば交流から新しい発想も生まれるかもしれません。「既存施設のリニューアル」による成果はどんな地域でも再現性が高いのです。
「注目すべき3つの課題」は全てつながっている
今シリーズで6回にわたり「注目すべき3つの課題」について、現状と解決策をお伝えしてきました。「サプライチェーン網/インバウンド施策/不動産の再構築」はそれぞれの問題点を持っていますが、互いに複雑に影響し合う関係でもあります。
「サプライチェーン網」での物流・情報の流通については、どの分野も欠かすことはできないでしょう。日本として収益を上げるには「インバウンド施策」が必ずカギを握ります。そのためにも未来に向けた「不動産の再構築」が求められ、償還期を迎えている今は喫緊の課題でもあります。
そして建設業界にいる私たちにとっては、どれも新しいビジネスにつながる大きなチャンスが目の前にあるといえます。「統合」は人の動きだけでなく、私たちの発想や実践でも求められるものです。既存の考え方に囚われず、あらゆるものを組み合わせて考える習慣を身につけていきましょう。