社会の進化は年々加速しています。もちろん進化に伴って建設業界も変化しているのは皆さんも感じられていると思います。しかしあまりにも多様な場面で大変革が起こっているため、全体像を把握するのが難しいのではないでしょうか。
私が取り上げたい第1のテーマは「インフラ大改革」です。生活に根ざしているインフラの中で注目すべき分野は、まず情報通信インフラそして電力インフラです。この2分野は近い未来で桁違いに規模と速度を増していき、間違いなく社会に大きな影響と変化を及ぼします。
次なる第2のテーマは「インテグレート」です。統合する・一体化するという意味ですが、その性質はここ数年で様変わりしています。建屋というハードにおける機能インテグレートに加えて、内装側、インフィルのインテグレートがもう一つの主役になりつつあります。
第3のテーマは建設業界の「IT・DX」です。この分野もAIが登場してから恐ろしいスピードで進化しており、この5年次第で成果が得られるかどうか、岐路にあたると考えています。2025年は進化発覚の元年だといえるでしょう。
さらに広大な情報通信ネットワークを構築
今、データセンターが空前の建設ラッシュを迎えています。ここ10年はその傾向は続くでしょう。最も建設が検討されているのが「ハイパースケールデータセンター」です。
私たちは現在、「ローカルエッジデータセンター」をネットワーク化した「リージョナルエッジデータセンター」の恩恵を受けています。これは1000〜5000世帯分を賄う規模のデータセンターです。しかし、ChatGPTなどの生成AIやLMM(大規模言語モデル)などの登場によって将来予想される情報トラフィック量が想像以上の数値になってきました。当初は2020年から2030年の間で15倍になるという予想だったものが、今は30倍以上になるといわれています。
そのためもう一回り大きなネットワーク、つまり「リージョナルエッジセンター」をネットワーク化した「ハイパースケールデータセンター」の必要性が高まってきました。これは5000〜1万5000世帯分を賄う規模です。近年、建設ラッシュを迎えているのはこの規模の施設です。
しかし現在、この規模のネットワークすら超えた情報トラフィック量になることは皆さんも想像できると思います。そこで最近は「ハイパースケールデータセンター」をネットワーク化した「AIデータセンター」の取り組みが進んでいます。2万〜30万世帯分のデータを扱える施設です。
旺盛な需要に対して、電力インフラをどうするか
ここで考えなければいけないのは、これらの大規模データセンターを運営・維持するための電力インフラです。設備は建設しただけでは使えません。必ず電力が要ります。「リージョナルエッジセンター」は2〜15メガワット、「ハイパースケールデータセンター」は25〜50メガワット、さらに「AIデータセンター」は100〜1,000メガワットを要します。100メガワットはビル100棟分の電力だと思ってください。
また、情報通信を支えるために不可欠な半導体工場はもっと電力を使います。例えば北海道千歳市に工場建設を決めたRapidusが本格稼働を始めれば、北海道における電力の1/4以上はこの工場で使用されるでしょう。そのため泊原子力発電所は2027年の運転再開をめざしています。また、TSMCが九州に工場を建設した要因の1つとしても、九州における大規模電力供給の安定性が挙げられます。
情報トラフィック量の増大が予想されているのは他分野も同様です。自動車の自動運転、通信可能な産業用ロボット、AIを活用したヘルスケア、莫大な流通を安全に行う金融機関などが広がれば、今後5年、10年でトラフィック量が何十倍にもなるはずです。そして、このネットワークを大都市圏だけでなく各地方にも張り巡らせる必要があります。そのための電力供給は必ず解決しなければいけない課題です。
先端技術は、すでに次の段階に進んでいる
では、この電力はどのように賄えばいいのでしょうか。次回は「インフラ大変革」で求められる情報通信・電力の各インフラについて、どのような解決法があるのかを考えてみます。
このシリーズでは以下の解説を進める予定です。
- 第2回
インフラ大変革① 電力と直結するハード構想とビジネス
- 第3回
インテグレートの必要① 小新築へ移行する建設トレンド
- 第4回
インテグレートの必要② インフィルを軸にスケルトンやインフラを考える
- 第5回
建設業界のIT・DXと未来① BIM活用を支えるデータ基礎環境
- 第6回
建設業界のIT・DXと未来② どのように人財を揃えていくか