第2のテーマ「インテグレート」の世界も、ここ数年で考え方が大きく変わっています。新築・増築のみが「インテグレート」の主役だった時代が終わり、インフィルのリニューアルと小新築をセットにする建築案件が増えてきました。詳しく見ていきましょう。
外側から内側へ、コロナ禍後の着目点が変わった
建築物は、構造の大枠としてスケルトンという外側のハード部分、インフィルという内装部分、内部にライフラインをつなぐインフラの3つに分けられます。スケルトンは建屋の外装・屋根・壁・共用部などを含みます。インフィルは執務や事業を行う居住空間、インフラは情報通信や電気・ガス・上下水道・道路などです。
コロナ禍後で最も影響を受けたのはインフィルでした。オンラインビジネスが定常化して、Web会議や在宅勤務は今や当たり前になっています。この変化に合わせて使われるツールも入れ替わり、ビジネスでもクラウドストレージなどを利用してデータをやり取りするようになりました。
このため、建設業界でもオフィスエリアのプランニングが一気に変わりました。多くの社内の執務空間は、カフェのように過ごしやすくする、固定席ではなくフリーアドレス化する、グリーンを調達するなど、毎日全員が出社するという従来の前提を崩して設計しています。働き方や事業のあり方が変わり、空間の使われ方も変わる。そこで注目されるようになったのが「チェンジマネジメント」という概念です。これは「変革を効率的に成功へ導くための管理」といっていいでしょう。
これは、これからの建設業界では非常に重要な考え方です。なぜなら建設の案件が従来の「新築・増築」だけの世界とは異なり、既存施設も併せて活用する方向へ流れを変えているからです。スクラップアンドビルドではなく、既存の形や機能をどのように活かして新しい価値を作るのか。ゼロから何かを作る方法から「うまく変える」建設の需要が増しています。
「既存施設を活かす」以外の選択肢が減っている
コロナ禍後の働き方改革のほか、工事費や材料費の高騰もこの流れに拍車をかけています。ここ3年のコスト上昇は凄まじい勢いです。2002年初めのコスト指数100とすると、この3年間では180から200にまで達しました。計画していた建築物について2022年までに建て始めた場合はそれほど影響を受けずに済みましたが、2023年以降では止まってしまうプロジェクトが増加しました。
だからといって設計を見直したとしても、テクニカルにコストを削減できるのは15%が限界です。それ以上のコスト上昇に対しては規模を縮小するしか方法がありません。日本の建設費にとっては円安が進んだ点もダメージにつながりました。この状況下で新築はかなり難しくなり、その影響でリフォームまで検討移行するケースが圧倒的に増えています。
2021年度と2023年度の案件を比較すると、一番変化しているのがリフォームの割合です。民間リフォームでは投資規模が2倍に伸びました。これが今の建設トレンドであり、私たちもしっかり対応を考えなければいけないところです。
人口減少に合わせた施設設計
その上で、今後の社会についても配慮した施設設計が求められます。日本の人口はすでに減少することが確定し、2050年以降は1億人ほどになると予想されています。このときの人口構成比は生産年齢人口50%、高齢者40%、若年層10%です。建築物は建てて20年後が一番使われるといわれます。今の私たちは、20年後の人口構成に合わせられるように施設を建てなければいけないのです。
ただし前述したように建築までの条件は非常に厳しいです。もし円高が進んで1ドル125円になれば材料費はひと息つけるかもしれませんがその可能性は低そうです。すべてを新築で一から建て直す選択肢は制限され、やはり既存施設の効果的なリフォームとセットで対応するのが現実的です。
それでも、私はこの状況が一つのチャンスに思えます。今後はスクラップアンドビルド一辺倒だった常識が是正され、従来とは異なるビジネスモデルが主流になるからです。方針を切り替えて対応できる会社が増えれば、建設業界も変わっていけるのではないでしょうか。次回はその具体的な方策を紹介します。