ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない 未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

加速する建設業界の進化と、 これからの社会構造を把握する

第5回 建設業界のIT・DXと未来①  BIM活用を支えるデータ基礎環境

3つ目のテーマは「建設業界のIT・DX」です。ここではBIM(Building Information Modeling)の活用方法に着目します。

業界においてBIMがキーであり続けるのは間違いないのですが、その役割は徐々に変化しています。これまでは建築で役立つ「アプリケーション」だったものが、今や建築工程のさまざまな情報と連結して新たなシステムを構築する道具=「オーサリングツール」になりつつあるからです。今後は、BIMに対して「どう使うか」よりも「どうつなげるか」が課題となります。

BIMに欠かせないCDEと、新たな連携方法

BIMのセンターを走っているのはAutodesk社のRevitです。建築領域においてはRevitのみで建築構造、機械・電気設備、その他の情報を一元的に処理しようという流れが一つの大きなモードになっています。しかしRevit単体では限界があるという声も出てきました。そこでは「どうつなげるか」が検討され、「オーサリングツール」としての活用が始まっているのです。

もしRevitを情報仲介する「オーサリングツール」として使うとすれば、欠かせないのがCDE(Common Data Environment = 共通データ環境)です。CDEは建築プロジェクトにおけるすべての情報を保存・管理するクラウド型データストレージです。Autodesk社は、CDEのプラットフォームとしてACC(Autodesk Construction Cloud)というサービスを提供しています。Revitの機能を最大限に生かしたいならACCの併用が不可欠です。

この連携が実現すると非常に有益なのですが、最大のネックとなっているのがコストです。1企業1アカウントでも数十万円がかかり、全国津々浦々の中小企業、設計事務所で利用するにはハードルが高い状態です。そこでACCの代替機能を果たしているのが、一般社団法人buildingSMART Japan(bSJ)が定義しているIFC(Industry Foundation Classes)という国際標準の変換ファイル形式です。Revitファイルに対しても互換性があるので、リーズナブルなBIMモデルのデータ交換・共有方法として広まっています。

CDEの存在を前提としてBIMを介したデータを共有し、その上でどのようにAIを掛け合わせて効率を上げるか。それが今後のテーマです。膨大なデータから必要な情報を引き出して判断を早く下す、この工程を上手に回していく新たなシステム構築が世界中で始まっているのです。

BIMに欠かせないCDEと、新たな連携方法

個社による環境づくり、その先は?

直近の未来で展望されているのは個社ごとの環境整備です。なぜなら個社レベルではすでに上記のようなデータ活用システムを実用化しようと試みているからです。例えば竹中工務店が発表した「設計ポータル」は複数の設計提案を行うツールで、2024年から同社が関わるすべての基礎設計に対して適用が開始されました。長谷工やスターツのような一用途に特化した事業を進めている企業も、BIM活用ツールを開発・実用化しています。

このような個社での取り組みについて、2030年頃にはそれぞれの成果がもっと露わになってくるでしょう。特に大手ゼネコンでは確実に設計や計算の自動化が進むはずです。BOXやNotionのようなストレージツールと組み合わせて、使いやすいインターフェイスも開発されようとしています。

しかし建設業界がもう一歩先へ行くためには、共通データ基礎環境(CDE)のコモディティ化が必要です。便利な情報ストレージと抽出方法について、個社ではなく業界全体のメリットを考えて横展開させるプロセスが必須なのです。

建築知識とIT知識を持つ人財はどこにいるか

先ほどの竹中工務店や長谷工、スターツで開発されたシステムについて、他社でも共有できる多用途に切り替えるには多大な労力とコストがかかります。また、その動きが開発元の個社にメリットになりにくい側面もあります。

この問題を解決できる人財がいるとすれば、設計・BIMなどの建築知識を持ちつつ、IoT・AIなどのデジタル系の知識を持つ人です。しかし双方の能力を持つ人はほとんどいません。

異なる分野の能力を併せ持つ人財を育てるのは非常に時間がかかります。求める水準も高いでしょう。この課題を解決するには、すでにその知識を持っている人に助けを乞うて活躍してもらうのが一番です。分野を跨ぐ人財が必要なら新たなアライアンスから獲得するのがこれからの方法だと考えます。
次回で具体的な方法を紹介します。

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