前回は、個人に求められるのはアッセンブリ能力に変わりつつあることを紹介しました。近い将来には加速度的に進化するDXを味方につけ、設計部分は自動化していくのが得策です。適切な要素選択についてはお客様のニーズを知るマネジャーが行うもので、お客様が本当に欲しい形に仕上げるのはまだまだ人間の仕事であると述べました。
そして、建てるべき「建築物」の形が、あらゆる情報をつなげて活用するコネクテッド施設となるのは必然だとも繰り返しお伝えしてきました。なぜならこれからのお客様が目指すビジネスにマッチするのは「箱」ではなく「媒介」となる施設だからです。
しかし「お客様にとって有用なコネクテッド施設を建築する」というゴールではまだ漠然としているかもしれません。私たちは具体的に何を目的に動き、どのような方法をとればよいのでしょうか。今回は機械任せにできない「人の領域」について詳しく解説します。
DX化・自動化が進むと改善される2つのポイント
コネクテッド施設への達成度が高まるにつれて、効率化と価値創造が進むポイントは2つあると考えます。1つ目は、建設サプライチェーン全般です。基本設計・実施設計で時間がかかっていたプラン構築を自動化すれば作業工程は短縮され、無駄な費用をかけずに効率よくプロジェクトを進められます。
立てたプランをしっかり実行できるように動くのが、マネジャーの役割です。プロセスの節目ごとにDRを設け、プラン通りに進められているかチェックし、軌道修正が必要であれば都度関係者に働きかけて障害を除いていきます。これはDX化・自動化が達成されるほどスムーズに進むようになるはずです。
効率化と価値創造が進む2つ目のポイントは、お客様に最終的にお渡しする「竣工図書」データです。従来は専門的な資料やデータを束ねただけのものが主流でしたが、現在は徐々に変わっています。お客様に施設運営で成功してもらうためには、専門知識を持たずとも施設状況が掴める分かりやすい「竣工図書」の窓が有効だと考えられるようになったからです。
建設プロジェクトでDX化・自動化が達成されるほど、扱うデータはデジタル一元化が進み、情報の整頓はしやすくなります。「竣工図書」の姿も、誰でも使えるインターフェースと連携させ、運営に必要な施設情報をすぐ取り出せるように改良できます。
お客様の具体的なゴールは「建築物」と「竣工図書」
究極の言い方をすれば、お客様にとっての最終ゴールは、いかに質の高い「建築物」と「竣工図書」(データを含む)を入手できるかにかかっています。私たちの効率化やコスト縮減は業界の自己満足で終わらせる成果ではなく、このお客様の最終ゴール実現のために行われるものです。DX化・自動化についてもこのゴールを最善にするために展開しなければいけません。そして「建築物」は単なる箱を超えたコネクテッド施設が求められています。
そこで今後必要とされる人財が、建設サプライチェーン全体をスコープし制御できるマネジャーです。現状から最も実現化しやすいのは「建設プロジェクト全般を見通したマネジメントプログラムの確立」と、それを実行できる「社内プロマネの育成」だと考えています。
まず、企画・設計・施工・運営と分割しがちな工程を一気通貫で考える視点を身につけ、無駄な重なりがあれば効率化する施策を当たり前にします。その働きかけを実行するために、マネジメントプログラムも並行して構築し、DX化・自動化を含む工程改善が円滑に進むように仕組みを変えます。
何のためにこれを行うのか、忘れそうになったらお客様への最終ゴールを思い出してください。より良い「建築物」を引き渡すと同時に、施設運営で有効に使える「竣工図書」をお渡しするのが目的です。誰でも分かりやすいデータに集約するためには、建設サプライチェーン過程での手順改善は必須です。そのために私たちは今の方法を見直し、DX化・自動化を進めようとしているのです。
血の通った建設プロジェクトにするには、人の力が必要
お客様にとってベストな「建築物」「竣工図書」を創出するのが仕事だと考えると、DX化・自動化は単に機械へ手順を丸投げすることではないと気づいていただけると思います。竣工後のビジネス展開までを包含した建設マネジメントを行う人間が存在しなければ、真のニーズを満たせないからです。
そして、やはりまだプロジェクト全体を俯瞰できる人財は不足していると感じます。今後は必ず建設シーンで求められると分かっていながら、育成の数が全然足りていないのです。
いくらテクノロジーが発達したとしても人と切り離して考えるのは不可能です。人がテクノロジーの性質を理解して使いこなしてこそ、本当の恩恵が得られるのではないでしょうか。私たちは今その過渡期に立っています。属人的なスキルを活用する世界から、テクノロジーを駆使する世界に移り変わる、ちょうど狭間にいるのです。
次回は、一気通貫の建設マネジメントが実現した未来の姿と、予測される課題について解説します。