ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

建設業界の自動化元年、人間とDX・AIテクノロジーをどう共存させるか

第6回施設建築の全情報がつながり合い、活用し合える未来

前回は、建設サプライチェーンでのDX化・自動化の目的が、お客様にお渡しする「建築物」「竣工図書」に集約されると述べました。効率化は私たちの自己満足で終わらせるものではなく、お客様が施設運営でしっかり利益を得られる状態につなげるのが真のゴールです。

今シリーズの第1回・第2回では理想の「建築物」としてコネクテッド施設に触れ、施設があらゆる要素を取り込んで稼働するシステム構造を紹介しました。第3回では建設サプライチェーンにおけるDX化・自動化の取り組みに触れ、第4回・第5回で理想の「竣工図書」と求められる人財について解説しました。

今回は、今抱えている課題と未来像について示してみたいと思います。

工程ごとの非連携システムをどこまで連携できるか

まず実践しなければいけない課題が、今分断されているDXシステムの連携です。建設サプライチェーンにおいては、企画系/営業系/設計系/施工系/見積積算系などのシステムが個別に稼働し、建設プロジェクトでは連続した工程でもシステムは非連携のままでした。

この連携についてはBIMを軸とした試行錯誤が続いています。具体的には、業界最王手であるBIMソフトに集約する動きと、ある変換ソフトを通してさまざまなタイプのデータを互換する動きがあります。私は後者のほうが優勢ではないかと読んでいます。

未来の「竣工図書」についてもBIMインターフェースが核となっています。私たちから見ると、建設プロジェクトには基本設計・実施設計・工事施工の詳細BIMがいくつも存在し、都度確認しながら建設を進めます。しかしお客様が施設運営に必要な情報、つまり「竣工図書」の中から使用する情報はそのうちのごく一部です。

今改善が求められているのは、お客様にとって本当に必要なBIMの抽出と、お客様でも見やすいインターフェースの構築です。お客様の施設運営ツールとしてBIM情報を整理し、使える「竣工図書」を創り出さなければいけません。

ただし、これらは表層的に見えている部分の改善といえます。実現のためには、さらに裏で存在するデータ流通の方法から見直す必要があります。なぜなら建設で扱うデータ容量は非常に膨大だからです。

ブロックチェーンを活用したデータ流通網が必須

全ての建設サプライチェーンがデータ化されてDX化・自動化が進み、全ての建築物がBIMを軸とした「竣工図書」を持つとすると、現在のデータ保存方式では情報の流通は困難です。例えば既存施設データは点群に置き直されるため1件だけでもテラ単位のデータが出来上がり、今のインターネット網ではやり取りに負荷がかかりすぎて現実的ではありません。

そこで検討されるのがブロックチェーン技術です。これならデータは分散管理でき、暗号技術に守られながら履歴を残すデータ取引が可能になります。今後は5Gや6Gという回線が普通になり、IOWNの実用化も加わって、受け取ったデータの処理能力も飛躍的に上がるはずです。膨大な施設データを瞬時に運べる時代はすぐ近くに来ています。

これらの膨大なデータが自由にやり取りされると、次にやってくるのが効率的なディープラーニングの世界、AI技術の躍進です。おそらくその前に基本設計・実施設計の自動化は実務に耐えられるレベルに達し、その上で膨大なデータが扱えるとなると、AI技術はさらに学習してアウトプットの精度を上げてくるでしょう。そしてシステムが便利になればなるほど、テクノロジーを活用する人財の真価が問われます。

解決プレーヤーのいないブルー・オーシャン領域が出現している

人と人がつながるアライアンスで、新しい発想を施設建築へ

私は、人と人の関係も、システムと同じようにシームレス化してどんどん情報共有をしていけばよいと考えています。現在の建設業界で働く人たちはどうしても業界内だけの交流に留まりがちです。さらに設計は設計、施工は施工と分野が細分化されてしまっているほどです。

あらゆる要素がインテグレートしていく今、私たちも考え方を変えるべきではないでしょうか。閉じた世界を開放して他業界の情報を取り入れ、積極的にアライアンスを結び、お互いの知見を生かしてコラボレーションしていくほうが建設業界の未来につながると確信します。

まずお客様が展開するビジネス領域はすでにシームレス化し、さまざまな要素を取り入れつつあります。広がるニーズを捉えるには、単分野だけの知見より複数の知見から対応したほうが喜ばれるでしょう。DX化・自動化などの技術面でもそうです。建設分野を兼任する人財より情報処理やテクノロジーを専門で学んだ人財を取り込み、精度の高いサービスにしなければビジネス競争に負けてしまいます。

お客様の施設運営のサイクルも区切りがなくなり、竣工後は運営しながら次の企画・設計・施工サイクルを予測して動いていきます。だからこそ、これからのマネジャーには、建設業界に立脚しながら幅広い視野を持ち、どんな分野とも貪欲に組んでいく姿勢が期待されます。

まだ完全なDX化・自動化に達する前の今は、人とシステムの良い関係を創出できる絶好の機会です。だからこそ若い皆さんには今の建設業界の情報や知識を吸収して、属人的とされる知の蓄積をさらに便利なDX化・自動化につなげてほしいと思っています。

PAGE TOP