1グローバル・サプライ・チェーンの再編成
以前は「世界をシームレスにつなぐこと」が命題とされ、お互いの空間と時間を気にせずに連携できる手法が歓迎されました。しかしコロナ禍以後は世界情勢が変わり、「シームレスにつなぐこと」が必ずしも良いとはいえなくなっています。この意識変化が第1の教訓です。
中国経済のバブル崩壊により、中国は自国を守る方向へ方針を転換しています。また、欧州ではウクライナ危機が起き、ロシア周辺の政治・貿易もシームレス化とは逆行した施策が行われています。世界でも、カントリーリスクやコスト高に対応する新たな枠組みとして以下の3つが注目されています。
- 海外進出していた工場などを国内回帰させるリショアリング
- 近隣友好国と連携するニア・ショアリング
- 交流や取引を同盟・友好国間に限定したフレンド・ショアリング
シームレスなグローバル・サプライ・チェーンとは打って変わって、世界的に「ショアリング」という一種の囲い込みが始まっているのです。
2テレワークビジネスの隆盛と再定義
同時に、コロナ禍の期間中にはテレワークビジネスが盛んになりました。そして人と対峙せずにビジネスが進められるようになった反面、「大切なことは直接会って話すべき」という本質も見直されるようになりました。この意識変化が第2の教訓です。
私たちもこれらの潮流に乗ったビジネスを構築しなければいけません。でも新たなビジネスを一から考えなければいけないかというと、そうでもないのです。これらの世界変化を予測した施策については、実は国のプランとして数年前から定められたものがあり、すぐに内容を確認できます。私たちはそれをヒントに今後のビジネスモデルを検討できるのです。
誰でもアクセスできる情報からOSINT(オシント)を試みる
今回のコラム連載で皆さんにお伝えしたいのは、上記のような世界変化や動向を予測するのは「誰でも可能である」という点です。経営者だからとか、業界の特別な情報を得られる立場だから、という背景は全く関係ありません。
例えば、将来を見据えた国のプランとしては、内閣府「対日直接投資促進戦略」が存在します。これは日本が「新時代におけるアジア地域での民主国家連合の経済的な要」となるため、国として地域開発や制度改善の目標を定めたプランです。2020年に40兆円だった対日直接投資額を80兆円、100兆円と増やそうとしています。
2023年4月に「対日直接投資推進会議」が開かれ、2030年までに具体的に実行したい施策が公表されました。以下のリンクから皆さんも情報を取得できます。
これは建設業界にいる人々にとっても非常に注目すべき情報です。なぜならこの資料を読むだけで、今後数年間に国の予算で何が行われ、どんな地域にリソースが集中し、どんなトレンドが生まれるかが分かるからです。
このニュースを他人事として見るか、自分事として見るか。
それが今後の私たちの未来を分けると断言していいでしょう。遠いニュースだと思えば無関係に過ごせます。しかし私はここに建設ビジネスを進化させるタネがあると考え、分析してビジネス戦略を練ります。そしてこの行動は皆さんにもできることなのです。
OSINT(オシント:オープン・ソース・インテリジェンス/Open Source Intelligence)という語句は聞いたことがあるでしょうか。これは「一般公開されているあらゆる情報を収集・分析し、独自の情報を得る手法」です。情報は一般公開なので、探せば誰でもアクセスできる場所に置かれています。
「対日直接投資促進戦略」についても同じです。戦略は政府から発表され、ニュースには載らない詳しい情報については資料から確認できます。得た情報は今後の自分のビジネスに生かせます。
OSINTで「先読み力」をトレーニングする
「対日直接投資促進戦略」は思考トレーニングの教材としても非常に面白く、分析しがいのあるものです。また、上述した「1 グローバル・サプライ・チェーンの再編成」に関連し、フレンド・ショアリングを活用した経済と人財・資金調達についても詳しく策定されています。
しっかり読み込めば皆さんのビジネスに応用でき、情報の「先読み力」をつけられます。情報を読み取る方法を覚えれば今後は自ら情報を探しにいけるようになるはずです。次回は、この「対日直接投資促進戦略」に着目して、書かれている内容を解説します。建設業界にどのような影響が予想されるかも一緒に考えてみましょう。