ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

オープン・ソースの活用法、ビジネスで使える「先読み力」のつけ方

第4回半導体が大きなカギ、日本が主導権を取り戻す未来とその根拠

この連載で紹介している「対日直接投資促進戦略」では、国の政策として5つの柱が掲げられています。「グローバルサプライチェーンの再構築/アジア最大のスタートアップハブ形成/高度外国人材等の呼び込み/海外から人材と投資を惹きつける環境の整備/オールジャパンでの誘致」です。

私たち建設業界は、これらの施策に対して「建築物」というハードと「技術導入」というソフトの両面から貢献が可能です。工場のような1つの中核施設ができればその周辺にはあらゆるモノや技術が集結し、建設という裾野が広い産業はどの部分からでも協力できるからです。

もう1つ、5つの柱を貫く重要な要素があります。それは「半導体」の存在です。5つのどの柱にも不可欠な装置・部品・要素であり、日本の技術はまだ世界と比べて優位であり続けている領域です。この「半導体」を武器としてどうやって世界へ斬り込むか、それが今後のビジネスの重要なカギを握っています。

従来インフラの限界を超える「IOWN構想」

現在、半導体分野で注目を集めているのが、日本国内外の企業を集めて取り組んでいる「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想」です。将来膨大になると予想される情報処理量に対して、伝送と処理の速度を飛躍的に上げたデバイスを作るプロジェクトで、NTTが旗振り役となっています。現在は光回路と電気回路を融合させて高速大容量化かつ省力小型化を実現する「光電融合デバイス」を開発、2030年の実用化を目標としています。

この中で利用されていくのが数々の「半導体」です。アナログ半導体やロジック半導体も含めて薄膜技術や微細化技術を応用して組み入れられていきます。日本の技術だからこそ加工や改善ができる部分も多いため、今後の世界産業を牽引する新技術になるのではと期待されています。

また、ケイ素など2つ以上の元素を材料とする化合物半導体の開発も進んでいます。この技術を応用すると、大電流・高電圧下での高速処理が可能な「パワー半導体」の生産にもつながります。

ただし単に高性能デバイス開発を作れば解決、というわけではありません。私たちは高性能デバイスの開発と並行して「新しい用途」についても検討する必要があります。従来のデバイスの1万倍ともいわれる処理性能を手に入れたとき、ただ現状からリプレイスするだけでは製品スペックが無駄になってしまうからです。

高性能デバイスを使ってリアルとデジタルをつなげる

今の私たちの社会で大きな課題となっているのは、リアル社会とデジタル社会の分離です。

リアル社会にはガスや電気などのリアルインフラが存在し、それらがリアル産業を駆動させています。しかしデジタル社会はまたリアルとは別の場所に存在し、うまく混じり合っていません。どの領域でも「半導体」が不可欠なのは共通していますが、私たちは2つの世界を切り換えながら生活している状態です。

サプライ・チェーンの階層も今はリアルとデジタルがつながっておらず、別枠で広がろうとしています。私たち建設業界の人間は、これから生まれる高性能「半導体」をテコに、この乖離している世界をつなげる活動を始めてはどうでしょうか。それは同時に社会のありようも変えていくものです。

具体的に挙げるなら、情報通信網・情報処理、発電所や送電所、ガス、上下水道などの社会インフラ全体に高性能デバイス(光電融合デバイス、パワー半導体など)が導入されれば、情報・エネルギーの生産効率は飛躍的に上がるでしょう。産業用モーターやスイッチング電源に応用されれば、産業での省エネ化や高速化に貢献します。通信を支えるデータセンターや回線にも使えば社会の情報処理能力が桁違いに上がります。

また、未だ「半導体」が入っていない場所に応用して、今つながっていないサプライ・チェーンの全てが相互につながる世界の構築も夢ではありません。

実は、この新しい社会のあり方が今まで述べてきた「対日直接投資促進戦略」にもつながってきます。これから日本が国として作ろうとしている社会、世界にアピールしようとしている社会は、高性能デバイスをうまく使うことで一気に実現に近づくからです。

建設はハードとソフトをつなぐ仕事だと考える

「対日直接投資促進戦略」によって半導体産業を盛り上げ、最新技術を導入して世界に先駆ける。同時に、作り上げた高性能デバイスをどんどん社会へ投入して全体最適を図り、「対日直接投資」が促進される環境を整える。どちらもこれからの日本には必要な動きです。さらに、経産省で現在策定されている「経済安全保障に関する産業技術基盤強化アクションプラン」にも大きくつながってきます。それらのどれに対しても建設業界は有効に働きかけられるのです。

建設業界の皆さんと話していると、どうも「建てること以外はアフターサービス」だと考える方がまだまだ多いと感じます。しかしITをはじめ製造、金融、医療などの他業界は視野を広げ、本来の役割を強みにしながら他業界とつながり、新しいビジネスを起こそうとしています。私たち建設業界もその輪の中に入っていくべきではないでしょうか。

建設はどの業界とも必ず重なり、つながり合う特性があります。施設や設備と無縁の産業はないからです。だからこそこれからのニュースを先読みし、国や社会が向かう世界に役立つよう、建設業界として力を入れなければいけないと考えています。

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