前回、国土交通省が2014年と2019年に改正した「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」について少し触れました。どの法律に関してもそうなのですが、法改正には国が今後作っていきたい社会の形について如実に表現されています。細かな法令変更や予算配分もこの方針に沿っていくのを前提に、2019年の改正内容を確認してみましょう。
案件が増えるのに発注者が足りない、PRE独自の課題
公共事業での発注者とは、自治体に在籍して土木・建築を担当する技師です。この人たちがいなければPREに関する建設業界への発注困難度が上がってしまいます。しかし現状を確認すると驚くべき数字が見えてきます。特に人口10万人未満の市町村では「担当できる技師がゼロ」という自治体が多数存在するのです。
また、工事発注件数と技師1人当たりの発注件数を見ると、都道府県や政令指定都市と比べて1人当たりの負担が著しく大きいことが分かります。この結果、せっかく国が導入しようとしている新しい入札制度なども反映されずにいるのです。この現状にメスを入れるため、国交省は「品確法」改正時に問題を明文化しました。それが上記の「5.その他」になっています。
「品確法」に明記された方法以外にも、技師不足の解決策はもう1つあります。それは民間で実現している労務配分を自治体にも応用することです。
民間ではいち早くプロジェクト推進の意識を変え、作業の山を上流工程側へシフトさせてきました。従来は基本設計・実施設計があらかた見えた段階で発注や調達が行われましたが、現在はマネジメントやDXの工夫で大幅に前倒しを実現しています。グラフにすると、上流工程にまるでマッコウクジラの体躯のような山が現れる配分なのです。
民間で実現できた大きな要因の1つは、2014年の「品確法」改正でした。さまざまな入札方式を柔軟に取り入れられる制度になり、企業が活用したおかげで新たな潮流ができたのです。むしろ今はこの配分が主流です。私は今後の公共事業でもこの姿を目指すべきだと考えます。
実はPREが先行した、新しい入札制度の導入
意外なことに、建設の入札における新しい制度の本格導入は公共事業のほうが先でした。民間事業の一部では早くから独自の手法で行われていましたが、全国に広まったきっかけは東日本大震災の復興事業です。従来の方式や工法より早く進められる方法として、基本設計や実施設計からのデザインビルド方式、設計段階から施工者が関与するECI方式、アットリスクCM方式、ピュアCM方式などが公共事業として本格採用されました。
この経験から、民間企業でも効率的な方式としてこれらの制度や手法を積極的に導入するようになりました。2014年の「品確法」改正はその後押しになったといってよいと思います。
公共事業でも彼らを参考に、労務配分を変え、少ない人員でも合理的に発注できるようにすべきです。同時に建設業界にいる私たちも現状を自覚し、公共事業のパートナーとして労務配分を改善する立場にならなければいけません。
自治体ならではの単年度思考は大きな課題
もちろん、地方自治体の中にも、民間で培われた知恵を使ってPRE戦略に取り組もうとする人たちはいます。しかし本質的に構造を変えようとすると、自治体ならではの課題にぶつかります。
1つ目の課題は、公共事業の予算は年度単位で計上され、計画も年度で区切られがちな点です。複数年にわたるプランは立てにくく、どうしても「今年何とかなればいい」と前例主義をベースに冒険を避ける傾向があるのは否定できません。
2つ目の課題は、自治体の体制上の制約によって、長期ビジョンをもってPRE戦略を担当・運用できる組織・人財が少ないことです。確かにPREを上手に運用できている自治体はいくつか存在しますが、どれも首長や経営企画室長など、複数年にわたってリーダーシップをとれる人財がいる地域がほとんどです。彼らが「PRE戦略は重要」と判断すれば大きな権限を使って実践できますが、そうでない場合のボトムアップはまだ難しいのが現状です。
それでも、私は今のCREで効果を上げている手法を応用して、今後のPRE戦略は徹底的に見直すべきだと考えています。そのためのステップは確実に昇ることができます。次回は民間企業のCRE戦略の成功例を解説し、次々回からはPRE戦略への応用を詳しく見ていきます。