前回のシリーズでは、内閣府が公開している「対日直接投資促進戦略」をベースに、いかに情報を読み込んで将来を予測するかを解説しました。このオープン・ソースは皆さんがすぐにアクセスでき、初めて読み解きにチャレンジする方でも扱いやすい情報だと考えたからです。
今回のシリーズではその知識をもとに、建設業界として注目すべきトピックを扱います。それは企業不動産(Corporate Real Estate:CRE)と公的不動産(Public Real Estate:PRE)のポートフォリオについてです。
企業不動産(CRE)は、企業の経営戦略の一環として近年注目されることが増えました。単に不動産として所有するだけでなく、位置する地域や用途を吟味し、長年にわたる運用によって収益を得られるよう戦略が練られています。
高度経済成長期にできた施設・建物はこぞって建て替えを迎え、2035年くらいまではそのトレンドが続きます。しかし60年近く前と同じように計画していてはダメなのは皆さんも理解できるでしょう。ではどんな思想で新しい施設作りを進めればよいか、今回のシリーズではその点を詳しく述べていきます。
建設業界は、今の国内景気を牽引している
話を続ける前に、まず忘れてはいけない大前提があります。それは「建設業界は、今の国内景気を力強く牽引している」という事実です。確かに建設費高騰や円安、人手不足などの不安要因はいくつもあります。しかし、それらを打ち消すほどの勢いが今の建設業界にはみなぎっています。
実際、中堅以上の建設会社はすでに2025年まで新プロジェクトの予定でパンパンです。特に設備工事会社、サブコンといわれる企業の仕事量は劇的に増加して、新規案件を受けにくくなっています。施設の建て替えだけでなく、水道やガスなどライフラインの改善、ITなどを絡めたニューインフラとの接続など、建設業界に求められる仕事は今後増え続けます。
その中で私たちは既存の手法を離れ、全く違う次元の世界を目指さなければいけません。従来のやり方を辿るのではなく、建設を通して「世界を良い方向へ積極的に変えていく立場にいる」と自覚すべきだと思うのです。PRE戦略における姿勢も同じです。
設計・施工の仕事から、人や環境をつなげる仕事になる
建設業界では、さまざまな法的条件をクリアした建築物を提供するのはもちろん、クライアントが目指すビジネスを実現できるよう、将来の人の流れや用途を考慮して施工するのが主流になってきました。
今後はPREでもその視点が求められ、インフラだけでなく教育や医療、IT、小売など他の産業との関係構築が仕事の大切な工程となります。この作業は一見難しく思えるかもしれません。しかし実践すれば多くのメリットがあります。
第1のメリットは、公共施設単体だけで収益を考えなくてもよくなることです。さまざまな産業と結びつければ新たな価値が生まれ、人口減少の中でも新たな人流を創出できます。第2のメリットは、建設業界にとって若い世代を惹きつける大きなチャンスになることです。単なる設計・施工で終わらない社会と地域に貢献するフィールドが知られれば、力のある人財が建設業界に入ってくるでしょう。
そして今、行政は意識的にPRE戦略の変化を取り入れ、新しい世代が働きやすい環境を実現しようとしています。業界としてこの流れに乗らない手はありません。
2019年「品確法」改正と2024年の働き方改革
国土交通省は2014年と2019年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」の改正を行いました。2014年改正は多様な発注方式の導入が軸でしたが、2019年改正は未来の担い手を意識した、働き方改革につながる内容となっています。
また、皆さんご存じのように、2024年春の働き方改革では建設業界にも「月45時間」という時間外労働の上限規制が適用され、「週休2日(4週8休)」も実現を求められます。これはポテンシャルがある若い働き手に対応できるよう業界が生まれ変わるための立派な構造改革です。
人・ビジネス・地域を連携させた施設を構築する、それを実現させる人財が働きやすい環境にする。この2つは今後の建築業界から外せない条件であり、もう私たちはこの世界に向かって走り始めています。この変化を頭に入れつつ、CREとPREのポートフォリオをどう変えていくか。そして、それが社会にどう影響するか。このシリーズでは以下のコラムから詳しく見ていきます。
- 第2回
企業不動産(CRE)と公的不動産(PRE)、統計から見る現況と対策
- 第3回
民間のCRE戦略、コストとプロフィットを再検討する企業が強い
- 第4回
公共のPRE戦略、民間と同じ構図で施設有効利用が可能に
- 第5回
公共のPRE戦略、人口減を踏まえた「集い場」をどう創るか
- 第6回
未来の理想像は、地域不動産戦略(DRE)
現在の課題を踏まえた上で、どのような考え方でCREとPREを変えていけばよいか。皆さんの業務でも十分に再現できる視点を提供していきたいと思います。