高度経済成長期に建てられた公共施設は築60年を超え、建て替えのラッシュを迎えました。この傾向は2035年頃まで続くと見られています。ただ、すでに建築物単体で完結する施設造りは時代遅れです。民間事業では、クライアントが今後どのようなビジネスを展開させるか、どのような設備と動線がそれを実現できるかを考え、数十年先を見据えた設計・施工が当たり前になっています。
この式から分かるように、純利益の増加または総資産の減少によって「ROA」は向上します。それをPRE戦略の中でどう実現するかが課題です。解決のヒントは国の施策からもいくつか出てきました。1つは働き方改革や「品確法」による労務環境の整備、もう1つは「PPP/PFIアクションプラン」による柔軟な運営方式選択の後押しです。
建物を新築するだけではなく、新しい「集い場」を創る
もし自治体の人口が60年前と変わらないのであれば、今ある古い建物をそのまま建て替えて同じ役割を持たせても機能するでしょう。しかし私たちはあの頃とは異なる状況にいます。高齢者が増えて少子化が進み、人口がどんどん減少していく未来はもう確定しています。
そこで私たちが提供できるのは、施設統合化とコンセッションを組み合わせた施設運営の実現です。どちらも企業不動産(CRE)などの民間案件で経験している解決策であり、それを私たちからPRE戦略にも組み込んでいくのです。
施設統合化の効果は大きく3つあります。1つ目は前回述べた「コスト・センターの整理」の実践です。2つ目は建て替え費用の圧縮です。以前と同規模の施設を分散して建て替えるより、機能を集約した施設を新築したほうが安く済みます。3つ目は人が集まる「集い場」の構築が可能になることです。
人口減が確定した未来においては「人が集まること」がとても大切な価値になります。人が集まれば交流が生まれ、ビジネスが成立し、文化ができます。しかし人が来ないことには不可能で、地域の人もモノも循環が止まってしまいます。例えば、図書館や体育館、文化ホールなどが1カ所にあれば人は集まりやすいでしょう。建て替えをチャンスと考えて旧施設の機能を統合し、人とモノが循環する「集い場」を創るのがカギなのです。
コンセッションを活用するビジネスを、PREにも応用する
「PPP/PFIアクションプラン」の策定によって、PRE戦略における施設運営はとてもやりやすくなりました。公共直営を前提とした設計・施工分離方式だけでなく、民間を活用する発注方式、例えば下記を積極的に導入するよう決められています。
BTO方式/BOT方式/BOO方式/BT+コンセッション方式/RO+コンセッション方式/RT+コンセッション方式など
「O」は「Operate」の略であり維持管理業務を意味します。「R」は「Rehabilitate」の略でありここでは改修や修繕を意味します。どちらも従来の設計・施工分離方式には含まれていなかった権限です。「コンセッション」は、施設所有権を公共に残したまま運営権を民間へ委託する方式です。
従来は運営可能な事業期間が短すぎて損益分岐点の先まで想定できない事業がほとんどでしたが、上記の方式を選べば長期的なビジネスとして検討しやすくなりました。言い換えれば、私たちも自治体のPRE戦略へビジネスとして参加しやすくなりました。ということは、これまで述べてきた「ROA」向上の施策を私たちが主導するプランとして提案し、採用される可能性も高まったといえるのです。
単年度主義の自治体と民間をつなげる人財を提供する
また、以前にも紹介したように自治体で発注業務を行える技師が減り、そもそものPRE事業のプランやビジョンを組み立てて検討できる人員が減りました。ここでも効果的な支援を行えるのが、建設業界ではないでしょうか。
どうしても単年度主義になってしまう自治体のPRE戦略を見直し、長期的なメリットや人口推移を織り込んで施設設計・運営を考えるのは民間が得意とするところです。また、国のさまざまな策定によって公共事業と民間事業の資産関与度・運営関与度の垣根は曖昧になりつつあります。むしろ国は、公共事業と民間事業を積極的に混ぜて両方のメリットを生かそうとしているようにすら思えます。その流れに抗わず、より良いPRE戦略に向けて参画するほうが日本の将来に貢献できると考えます。
PREのポートフォリオを見直して「ROA」向上を目指し、「アクションプラン」を後ろ盾にして積極的に自治体のPRE戦略を支援する。これは今、私たち建設業界ができる大きな社会貢献です。
ただし、本質的な地方創生につなげるには、もう一段俯瞰した概念が必要だと私は考えています。それは公的不動産(PRE)を超えた地域不動産(DRE)という考え方です。次回はこの構想について詳しく紹介します。