ブルーオーシャンの見つけ方 Blue Ocean

ブルーオーシャンとは、競合相手のない未開拓市場のこと。
社会と経済の潮流はどこに向かうのか。
未来を築くインフラのあり方とは。
サーファーの顔も持つ川原秀仁が、業界業種を超えて縦横無尽に語るインタビュです。

建設業界から変えられる、企業不動産(CRE)と公的不動産(PRE)のポートフォリオ

第6回未来の理想像は、地域不動産戦略(DRE)

前回最後に触れたように、公的不動産(PRE)における公共事業と民間事業の資産関与度・運営関与度の垣根は曖昧になりつつあります。最終目的はそれぞれで異なるものの、そこへたどり着くまでに選択するルートは多様化し、どちらでも通用するケースが増えているのです。

従来のようにパキッと「公共による直営/民間による運営」と分かれるわけではありません。所有権は公共が持ちながら運営権は民間が委託される方式、所有権も含めて民間に任される方式、公的資金が多く注入される方式もあれば民間資金を積極的に使う方式などが存在します。また、これらを併用する案件も増えています。

うまく「ROA」を向上させて今あるPREを最大限活用するのが第一の目標ですが、私は今後もっと広い視野をもって不動産全体の価値を上げる必要があると考えています。公的不動産(PRE)だけではなく企業不動産(CRE)をも巻き込み、さらに広域となる地域不動産(DRE)構築までを目標に据えるべきだと思うのです。

自治体単体だけで文化圏を創るのは難しくなってくる

建築物において、建物単体だけの完成でよしとする案件は減りました。今は、その施設がどのように人を集めてビジネスに役立つのか、どんな機能を持たせるのかを吟味し、周辺とのつながりを考えながら施設設計を行うのが主流です。

不動産においてもそれは同じです。

1企業が持つCRE、1自治体が持つPREだけで考えていては、ゆくゆくは行き詰まってしまいます。それら複数の団体を包含した地域不動産(DRE)を想定し、該当地域にどんな機能や特色を持たせ、どんなつながりを創るのかを考える段階に来ています。そうしないと「人を集める」という重要なミッションが達成しにくいからです。

もしDREが実現すれば、以下のような地域価値のスパイラル・アップが期待できます。まずPRE戦略として「ROA」向上を実現できるスキームを採用し、人が集まる施設・仕組みを構築します。その施設を中心に集まった人たちへのサービスが発生し、同時に雇用や仕事も発生するでしょう。それで人が増えればインフラの充実や住環境の向上が見直され、移住促進や多拠点居住ニーズが高まります。

これがある1自治体だけでなく、周辺の複数の自治体で実践され、さらにその地域同士が連携してニューインフラ導入や地域情報の流通が始まれば、地域全体の価値が上がっていきます。これを官民が協力して実現させれば、人口が減る地域でも人とモノ、そして不動産が生かせると思うのです。

自治体単体だけで文化圏を創るのは難しくなってくる

公共と民間、人とモノをつなげるのは建設業界の役目

実現までにはさまざまなハードルが想定されます。まず参画する自治体のトップに、長期的なPRE戦略と地域単位の価値向上に賛同いただく必要があります。また、その地域にある企業とも連携して、自社利益に留まらないCRE戦略を理解してもらわなければいけません。地域住民の皆さんのニーズ、地域の特色にも配慮が求められるでしょう。

これらのハードルをクリアしてDREが実現できれば、従来の公共投資の全体スキームは本質的に変えられます。役割が違うPREとCREの良いところを取って、お互いの不足を補いながら地域として価値と収益を上げていけるからです。

そして、上記のような異なる事業レイヤー・人々・地域をつなぐことができるのは、建設業界の人間からのアイデアと行動力です。自治体だけ、企業だけ、住民だけでは成立し得ません。それら全体を俯瞰してマネジメントを行った経験を持つ建設業界が関わってこそ、新しい社会を構築できると思うのです。

さらに人々を動かすための具体的な方法

建物というハード、つながりという仕組みを作っても、実際に地域の皆さんが利用してメリットを享受しなければ空論になってしまいます。そうならないための施策として、以下があります。

地産地消から拡げ、地元の人々の情熱で成し遂げるようにする
地域にある財産をくまなく再確認し、B級ではなくA級を創出する支援をします。その質から皆さんの所得向上を目指します。
自治体の枠を超えた事業を創り出す
プラットフォーマーを誘致し、アイドル/シェアリングエコノミーとの組み合わせを検討します。既存の発想を飛び越えたアイデアは外部からの人財のほうが生みやすいかもしれません。
行政区域をタブーなく跨いで連携する
これは自治体の説得を必要とするプロセスですが、ここで地域ネットワークを構築できれば1つのブランドになり得ます。ブランドは人を呼べる大きな武器となります。

ただ単に外部から実績者を連れてきても地域に根ざす文化は創出できません。やはり地元の皆さんと一緒に活動できる素地が要ります。その土台の上で新しいアイデアを使い、利益を目指すのが一番有効な手段ではないでしょうか。また、人と人、地域と地域をつなぐ仕事には貢献性とやりがいがあります。建設業界にいる若い皆さんにとって従来の業界とは異なる、魅力あるフィールドとなります。

CREとPREから始まったシリーズですが、私は最終的に地域を包括したDREまでの可能性を考えています。これが最終的な地方創生のあり方なのではないかと確信しています。

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